女と男と鏡② あの世での再会<後漢・隋>

前回、鏡が結婚の際に用いられたことを示す具体例を紹介しました。

今回は、めでたく夫婦となった、その後の話です。

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589年、中国南朝の陳という国が隋に滅ぼされた時、徐徳言という人が妻に言いました。

「国が亡んだ後、あなたは敵に捕らわれてしまうだろうが、縁あれば再会できよう。
その時のために・・・」

徐徳言はそう言うと、鏡を二つに割り、一つを妻に渡し、残りの一つを自分が持ち、再会して元に戻すことができるよう、誓いをたてました。
(猛棨『本事詩』情感篇より)

結局、この二人は鏡のおかげで無事に再会を果たしました。
こうしたお話から、鏡は男女、夫婦の愛情のシンボルとされていたことがわかります。

今でも夫婦の別れを「破鏡」、そして再会することを、割れた鏡が再び円の形にもどることから「破鏡重円(はきょう ちょうえん・はきょう じょうえん)」といいます。
こうした言葉は、鏡が愛情のシンボルとして特別な役割をもっていることを反映しています。

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「破鏡重円」の具体的な様子が、発掘調査で確認されています。
それは洛陽市の焼溝漢墓(しょうこうかんぼ)群38号墓の発掘成果です。

38号墓(後漢代)には3人の人が葬られていましたが、そのうちの2人の傍らに二つに割られた鏡がそれぞれ置かれていました。

洛陽焼溝漢墓群38号墓
(参考文献①より引用、一部改変)

あの世での再会を誓ったのかも知れませんが、少々問題なのがその鏡を持っていた2人の関係です。

主室に並んで埋葬されている2人が夫婦(または夫と第1夫人)とすれば、男性が再会を誓ったのは妻(または第1夫人)ではなく、副室に埋葬された方(第2夫人?)になってしまいます。

発掘調査は当時の鏡文化を知る重要な手がかりを私たちに与えてくれますが、時には他人の秘密を暴いてしまう、ちょっと残酷な側面もあるようです。

ー3ー
せっかくの誓いの証である「破鏡」も、不義理を犯してしまうと、とんでもない行動にでてしまいます。

むかし、ある夫婦が離ればなれになる際、鏡を2つに割り、その破鏡を夫婦で一つずつ持ち合う「破鏡重円」の誓いをたてました。
ところが、妻が別の男と浮気をしてしまいます。すると、妻の持つ破鏡が鵲(カササギ)という鳥になって夫の前に飛んでいき、なんと、妻の浮気を夫に告げ口してしまうのです。
※『神異経』(『御覧』717所収)(前漢か。六朝中期以降の説もある)より

カササギは、男女の仲をとりもつとされる鳥ですが(詳細は以前のブログを参照)、
過ちを犯す者にはなかなか厳しいようです。

<参考文献>
①中村潤子 1999年『鏡の力 鏡の想い』大巧社
②小南一郎 1978年「鏡をめぐる伝承 ー中国の場合ー」
 森浩一編『鏡』日本古代文化の探求 社会思想社